【弁護士解説】交通事故の治療で「労災保険」と「健康保険」は使用できるか?必須となる手続きと使い分け

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【弁護士解説】交通事故の治療で「労災保険」と「健康保険」は使用できるか?必須となる手続きと使い分け

交通事故に遭われた際、まず頭を悩ませるのが治療費の支払い方法ではないでしょうか。

加害者側の任意保険会社に任せておけば良いのか、それともご自身の健康保険や労災保険を使うべきなのか、判断に迷う方は非常に多いです。

特に、通勤中や業務中の事故の場合、「労災保険」が使える可能性があるため、さらに複雑になります。

この記事では、交通事故と労災問題に詳しい専門弁護士が、労災保険と健康保険の適用範囲、使用するメリット・デメリット、そして自賠責保険との関係まで、6つの重要論点に基づき徹底的に解説します。

ご自身の状況に合わせた最適な選択をするための判断材料としてご活用ください。

 

1. 交通事故で労災保険、健康保険が使用できるのか

結論:通勤中・業務中の事故では労災保険を使用でき、労災適用外の事故の場合には、健康保険が使用できます。

交通事故の場合に、労災保険や健康保険を使用できないと思い込んでいる方が、あまりにも多いですが、使用可能です。

 

交通事故と労災保険の適用

交通事故が「通勤中」または「業務中」に発生した場合、労災保険(労働者災害補償保険)の適用対象となります。

通勤災害:住居と就業場所との間の往復など、合理的な経路及び方法による移動中に発生した事故を指します。

業務災害:業務を遂行中に発生した事故を指します。

交通事故でも、労災保険は使用可能ですので、病院が要求するような「自賠責」という名の「自由診療」で治療を受ける必要はないのです。

ただし、労働基準監督署ないし労働局に対して、「第三者行為による傷病届」**を提出する義務があります。

 

交通事故と健康保険の適用

交通事故が、業務外・通勤外など、労災保険の適用外である場合、健康保険を使用することができます。

交通事故のような第三者の行為によって怪我をした場合でも、健康保険は原則として利用可能です。

ただし、健康保険組合等に対して、**「第三者行為による傷病届」**を提出する義務があります。

この届出を提出しないと、健康保険から加害者側への求償(立て替えた治療費の請求)ができなくなる可能性があるため、必ず手続きを行う必要があります。

 

労災保険と健康保険の使い分けの原則(法的根拠)

労災保険の適用となる事故の場合、健康保険の使用は法律上禁止されています(健康保険法第55条第2項)。

したがって、通勤中や業務中の交通事故では、健康保険ではなく、必ず労災保険を使用しなければなりません。

もし誤って健康保険を使ってしまった場合、後から労災保険に切り替える手続きが必要となり、健康保険組合から治療費の返還を求められるケースもあるため、初診時から正確な保険選択を心がけてください。

 

2. 労災保険、健康保険を使用した方がよい場合。

結論:通勤・業務中の事故で賠償額の最大化を目指すなら、補償範囲が広く後遺障害認定で優位性がある労災保険の利用を強く推奨します。

労災保険を使うことの最大のメリット

※ 過失割合を気にせずに、治療費、休業損害、後遺障害給付金が受領できる点です。

自身の過失割合が、2割以上になっている場合は、労災保険(健康保険の場合も同様です。)を使用することを検討してください。

 

労災保険を使用する他のメリットは、治療費以外の補償まで広くカバーされる点です。

  • 休業補償給付:休業4日目から、給付基礎日額の**60%に加え、特別支給金として20%の合計80%**が補償されます。**最大休業損害の120%**が受け取れる可能性があります。

    休業損害の基礎知識や計算方法について詳しくは、【休業損害の基礎知識と計算方法】の記事をご参照ください。

     

  • 後遺障害の認定:後遺障害が残った場合、労災保険独自の基準で認定が行われます。自賠責保険よりも緩やかに認定される傾向にあります。

健康保険を使用するメリット

健康保険は、労災保険が適用できない業務外の事故において、治療費を自己負担3割に抑えられる点が最大のメリットです。

手続きは比較的簡便ですが、労災保険とは異なり、治療費以外の休業損害、後遺障害は一切カバーされません。

 

ケース別の使い分けの推奨

状況 推奨される保険 理由
通勤中/業務中の事故 労災保険 休業損害を含めた手厚い補償があり、後遺障害認定手続きにおいても有利になる可能性があるため。法律上の使用義務があります。
加害者が無保険・低保険 労災保険または健康保険 加害者から十分な賠償を受けられない可能性があるため、ご自身の保険で治療費を確実に賄う必要があります。
治療が長引きそうな場合 労災保険 治療が長引いても、保険会社に治療費の支払いを打ち切られる心配がなく、安心して治療を続けられます。

3. 労災保険、健康保険使用に当たって必要な手続き(第三者行為による傷病届)

結論:労災保険は所轄の労働基準監督署に、健康保険は保険者(健康保険組合)に「第三者行為による傷病届」を提出することが必須です。

労災保険に必要な手続き

労災保険を使用する場合、所轄の労働基準監督署に給付申請書を提出します。

健康保険に必要な手続き:「第三者行為による傷病届」

 

交通事故で健康保険を利用する場合、加入している健康保険の保険者(協会けんぽ、健康保険組合など)に対して**「第三者行為による傷病届」**を提出する必要があります。

この届出は、**健康保険が立て替えた治療費を、加害者側に請求する権利(求償権)**を確保するために非常に重要です。

提出先:加入している健康保険組合や市町村の国民健康保険窓口。

提出を怠るリスク:健康保険組合から、立て替えた治療費の全額を被害者自身に請求される可能性があります。

まとめ

今回の記事は、交通事故における労災保険、健康保険緒使用方法等について解説しました。

今回の記事をまとめると、

① 交通事故でも労災保険、健康保険は使用できる(但し、第三者行為による傷病届の提出が必要。)

② 自分の過失が2割を超えそうであれば、労災保険、健康保険の使用を検討する。

③ 後遺障害申請を行う場合は、労災保険に対する申請を先行させる。

の3点です。

自分は被害者だから、自分の保険は使用したくないという方が時折おられます。

その選択をしてもよいですが、何十万もの金額の損をするかもしれないことを十分頭に入れておきましょう。

 

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