【弁護士解説】腰椎圧迫骨折の基礎知識:体の仕組みと骨折のメカニズムを理解し、不安を解消する

腰椎圧迫骨折 メカニズム

はじめに:体の仕組みを知ることが、適正な賠償への第一歩

交通事故で「腰椎圧迫骨折」という診断を受け、ご不安なこととお察しいたします。

特に、「自分の体がどうなってしまったのか」「後遺症は残るのか」といった、体の仕組みそのものへの疑問が、大きなストレスになっているのではないでしょうか。

弁護士による適切な後遺障害認定手続きを進めるためには、まず被害者ご自身が脊椎の構造と骨折のメカニズムを正しく理解することが非常に重要です。

この基礎知識が、医師とのコミュニケーションを深め、必要な画像所見を揃えるための土台となります。


脊柱の構造と腰椎の役割

私たちの背骨は「脊柱(せきちゅう)」と呼ばれ、合計26個の椎骨(ついこつ)が積み重なって構成される人体の中心的な柱です。

脊柱の区分けとS字カーブ

脊柱は上から、頸椎(首)、胸椎(胸)、腰椎(腰)の主要な3つの部分に区分されます。

部位 椎骨の数 特徴
頸椎(けいつい) 7個 頭部を支え、前弯(前にカーブ)している。
胸椎(きょうつい) 12個 肋骨と繋がり、後弯(後ろにカーブ)している。
腰椎(ようつい) 5個 最も荷重がかかり、前弯している。

脊柱は横から見ると、頸椎と腰椎が前に、胸椎が後ろに曲がる「ゆるやかなS字状のカーブ(アライメント)」を描いています。

このS字カーブが、衝撃を吸収し、体幹を支えるクッションの役割を果たしています。

腰椎の具体的な役割と椎間板の構造

腰椎は、脊柱の中でも特に上半身の重みを支える「支持」機能と、体幹を曲げたり反らしたり

する「運動」機能を担う、最も負担のかかる部位です。

また、脊柱の中央には脊柱管というトンネルがあり、重要な神経「保護」する役割も持っています。

特に腰椎レベルでは、脊髄は終焉し、多数の神経根からなる馬尾神経(ばびしんけい)が通っています。

このため、腰椎の損傷は胸椎損傷のような重度の脊髄麻痺とは異なり、主に馬尾症候群や特定の神経根症状を引き起こす可能性が高いです。

椎骨と椎骨の間には、衝撃吸収材となる椎間板(ついかんばん)が挟まっています。

脊柱 輪切り

 

椎間板 脊柱管

 

椎間板は、中央の水分を多く含むゼリー状の髄核(ずいかく)と、その周囲を囲む何層もの線維輪(せんいりん)で構成されています。

線維輪が髄核を守り、体への衝撃を和らげているのです。

脊柱の構造と役割について、さらに専門的な情報にご興味があれば、こちらの医学情報も参考になります。

脊椎のしくみや働き|代表的な病気と治療法も解説


圧迫骨折が発生するメカニズム

圧迫骨折は、主に椎体が上下からの強い力(軸圧)急激な屈曲力を受けた結果、発生する高エネルギー外傷です。

骨折発生のバイオメカニクス(三柱理論と不安定性)

脊柱の安定性は、デニス(Denis)の三柱理論(Three Column Model)に基づき評価されます。

このモデルでは、脊柱を前方柱、中央柱、後方柱の3つに分けて考えます。

圧迫骨折がどの柱にまで損傷を及ぼしたかによって、その後の予後や後遺障害の重さが変わってきます。

柱の名称 構成要素 損傷時のリスクと安定性
前方柱 前縦靭帯、椎体・椎間板の前方2/3 この柱のみの損傷(楔状圧迫骨折)は、比較的安定している。
中央柱 後縦靭帯、椎体・椎間板の後方1/3 損傷すると「不安定脊柱」となり、骨片が脊柱管へ飛散し、神経圧迫(馬尾症候群)のリスクが著しく高まります
後方柱 椎弓、椎間関節、後方靭帯複合体 中央柱と同時に損傷すると、脊柱全体の力学的支持能力が著しく低下します。

なぜ椎体の前方が潰れるのか(楔状変形と損傷機序)

交通事故における腰椎圧迫骨折の機序は、主に以下の通りです。

1. 急激な屈曲(ジャックナイフ効果):

追突時など、上半身が前方へ急激に投げ出されると、椎体前方に極めて高い圧縮応力が集中します。

これにより、典型的な楔状圧迫骨折(Wedge Compression Fracture)が発生し、椎体の前方高が後方高に比べて大きく減少します。

2. 軸圧(垂直方向の衝撃):

車両の転覆などで脊柱の長軸方向から強い圧縮力が加わると、椎体が全体的に圧縮・破裂する破裂骨折(Burst Fracture)となります。

これは中央柱の損傷を伴うため、不安定性が高く、重度の神経損傷を引き起こしやすいです。

この椎体の潰れ(圧潰)が、後遺障害認定の客観的な判断基準となります。

後遺障害認定における分類のルールについて、さらに詳しく知りたい方はこちらもご覧ください。

後遺障害等級認定における併合・相当・加重のルールについて


変形と運動障害の発生原理

圧迫骨折後の「変形」と、それに伴う「可動域制限(運動障害)」は、後遺障害として認定されるための二大要素です。

椎体変形(後弯・側弯)と矢状面バランスの崩壊

健常な腰椎は前弯(Lordosis)を呈し、身体の重心を効率的に支持しています(矢状面バランス)。

椎体がつぶれて前方高が大きく減少すると、正常な前弯が失われ、異常な後弯変形(Kyphotic Deformity)が発生します。

この異常な後弯が固定されると、脊柱全体の力学的効率が低下し、慢性的な疼痛や疲労の原因となります。

さらに、変形した椎体は、隣接する上下の椎間板や椎体に異常な剪断力や圧縮力を与え続け、隣接椎体への二次的な変性疾患(Adjacent Segment Disease)を引き起こす原因ともなります。

この変形の程度(圧迫率やコブ角)こそが、後遺障害の等級(6級、8級、11級)を決定づける最も客観的な要因となります。

運動障害は「器質的損傷」が基盤

骨折により椎体が変形したり、手術により椎体をボルトなどで固定したりすると、その部位の可動性(動く範囲)が物理的に制限されます。

これが運動障害(可動域制限)です。

重要なのは、後遺障害として認定される運動障害は、単に痛いという訴えによるものではないということです。

骨折や固定術といった器質的損傷が原因で、客観的な可動域の制限(例えば、可動域が健常者の2分の1以下)が証明できることが認定の基盤となります。

変形と可動域制限の程度は、最終的に獲得できる賠償金に直結します。

後遺障害等級認定の申請方法には「事前認定」と「被害者請求」があり、適切な等級獲得のためには、被害者側が能動的に証拠を提出できる被害者請求が有利です。

【事前認定と被害者請求の違い】後遺障害等級認定の2つの申請方法

交通事故で発生する損害賠償の中でも、後遺障害に関連する賠償金は非常に高額です。

損害が大きくなる賠償金トップ3について、事前に把握しておくことをお勧めします。

交通事故で損害が大きくなる賠償金トップ3

 

【次のステップへ】この基礎知識を踏まえた具体的な「後遺障害認定」の解説

今回解説した脊柱の構造、圧迫骨折のメカニズム、変形の原理といった基礎知識は、後遺障害等級の認定を勝ち取るための大前提となります。

この基礎知識を踏まえ、実際に「非該当」や「8級」といった具体的な後遺障害等級の認定を勝ち取るための具体的な壁と対策について、さらに深く理解したい方は、こちらの応用記事をご覧ください。

【弁護士が徹底解説】腰椎圧迫骨折の「後遺障害」は非該当?8級?認定の壁を突破する3つの鍵


まとめ

腰椎圧迫骨折後の適正な賠償金獲得は、脊柱の基礎構造と骨折のメカニズムの理解から始まります。

脊柱のS字カーブと椎間板の役割を知ることで、なぜ椎体の前方が潰れるのか(楔状変形)が明確になります。

骨折が不安定型であるか否かの医学的判断は、治療方針だけでなく、上位の後遺障害等級に直結する重要な要素です。

後遺障害認定は、変形の程度(圧迫率)器質的な運動制限という客観的な証拠で決まるため、専門家である弁護士に画像所見の精査を依頼することが不可欠です。

不安を解消し、適正な賠償を受けるために、お早めに弁護士へご相談ください

【交通事故問題は弁護士に早く相談すべきか?】

後遺障害認定の準備は、治療中から始まっています。

後の等級認定で後悔しないよう、専門家である弁護士に相談する最適なタイミングと流れについて、こちらの記事をご覧ください。

交通事故問題は弁護士に早く相談すべきなのか?相談のタイミングと流れについて

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