交通事故で「ヘルニア」と診断された方へ:素因減額を阻止する3つの反論ポイントを弁護士が解説

ヘルニア 素因減額

はじめに:交通事故でヘルニアと診断された被害者が知っておくべき「素因減額」の壁

 

交通事故に遭い、病院で椎間板ヘルニアと診断された方の中には、保険会社から「あなたの症状は事故ではなく、事故前から存在したヘルニア(既往症)が原因だ」として、素因減額を主張され、賠償金の大幅な減額を迫られている方が多くいらっしゃいます。

椎間板ヘルニアは、加齢に伴う椎間板の退行変性の過程で生じる疾患であるため、保険会社は「素因(被害者の持病や体質)が損害の拡大に寄与した」と主張し、損害賠償額を減額しようとします。
しかし、これは必ずしも正しい主張ではありません。

 

裁判所の判断基準によれば、素因減額は、ヘルニアが**「個体差の範囲内」であれば認められず、また減額が認められる場合でも、その割合(パーセンテージ)は事案によって大きく異なります。
特に、既往症のヘルニアが
無症状だった場合、素因減額を阻止**できる可能性は十分にあります。

 

本記事は、交通事故の素因減額問題に詳しい弁護士が、椎間板ヘルニアを巡る素因減額について、以下の点を徹底的に解説します。

  • ヘルニアで素因減額が認められる法的基準(最高裁判例の考え方)
  • 保険会社の主張を阻止・軽減するための3つの具体的な反論ポイント
  • ヘルニアの減額割合に関する具体的な裁判例の傾向

不当な減額を受け入れる前に、この記事で正しい知識を身につけ、適正な賠償金を獲得するための第一歩を踏み出しましょう。


 

第1章 椎間板ヘルニアと素因減額の法的判断基準(最高裁判例の解説)

1. 素因減額の対象となるのは「疾患」か「身体的特徴」か

素因減額は、加害者に損害の全部を賠償させるのが公平を失するときに、民法第722条第2項の過失相殺の規定を類推適用して、損害賠償額を減額する法理です。

最高裁判例によれば、被害者の身体的特徴が損害の拡大に影響した場合、以下のように判断されます。

  • **「疾患」**に該当する場合は、減額の対象となります。
  • 「疾患」に当たらない身体的特徴は、原則として斟酌(減額)できません。なぜなら、その程度の身体的特徴は、個々人の個体差の範囲として当然に存在が予定されているものだからです。

2. 椎間板ヘルニアは法的に「疾患」と評価されるか?

頸椎・腰椎椎間板ヘルニアは、加齢とともに発症率が高くなるものの、比較的高齢であっても、その多くが発症するものではないことから、基本的には**「疾患」と評価すべき**であると考えられています。

しかし、「疾患」という法的概念は医学的概念を基礎としつつも、被害者の年齢に相当する平均人の身体的特徴の範囲内であるか否かが基準となります。

    • 例えば、骨粗鬆症などの加齢による変性であっても、当該年齢層の平均を大きく下回る場合でない限り**「疾患」とは評価されない**場合が多いとされています。
    • 後遺障害認定の基準そのものに誤解があるケースも少なくありません。

      併せて、交通事故でよくある間違い!後遺障害の認定となる基準とはをご確認ください。
      交通事故でよくある間違い!後遺障害の認定となる基準とは

3. 無症状のヘルニアでも減額されるのか?

最高裁の後縦靭帯骨化症(OPLL)判決は、以下のように判示しました。

**「加害行為前に疾患に伴う症状が発現していたかどうか」**は、素因減額の可否を左右するものではない。

つまり、事故前は無症状のヘルニア(既往症)であっても、それが**「疾患」に該当し、事故による損害の拡大に大きく寄与したことが明白**である場合は、素因減額の対象となる可能性があるということです。

ただし、注意点として、下級審裁判例の中には、事故前にヘルニアの症状が発現していなかったことを減額否定の理由とするものも存在します。この点は、ヘルニアの症状が事故を機に「有症状化」したと判断されることが多いためです。


 

第2章 ヘルニアと事故の「因果関係」を立証する鍵🗝️

1. 「疾患」があっても減額されないケース

被害者が「疾患」に該当する素因を有していたとしても、それだけで直ちに素因減額が認められるわけではありません。素因減額が認められるためには、以下の立証が必要です。

  • 加害行為と被害者の疾患が**「共に原因となって損害が発生した場合」**であること。
  • 素因を斟酌することが**「公平を失しないこと」**(最高裁の基準)。

特に重要なのは、素因減額の立証責任は加害者側にあることです。加害者側が「疾患も損害の原因となっていること」を医学的・論理的に積極的に立証できない限り、裁判所は減額を認めません。

2. 「因果関係あり」を証明する3つのポイント

保険会社の主張を阻止し、全額賠償を勝ち取るために、以下の3つの反論ポイントを押さえましょう。

  1. ポイント①:神経学的所見の一貫性:事故直後から、画像所見(MRI)と整合する神経学的検査所見(筋力低下、知覚鈍麻など)が一貫して認められることを診療録等から立証する。
  2. ポイント②:軽微な事故ではないこと:事故の衝撃が、ヘルニアの症状を発症させ得る程度であったことを、事故車両写真物件事故報告書の記載、車の修理費から立証する。
  3. ポイント③:「個体差」の範囲内であること:既往症の変性所見が、被害者の年齢に相当する平均的な身体的特徴の範囲内であることを、医学文献や専門医の意見書を根拠として主張する。

3. 因果関係が否定されるリスク

事故直後の症状が軽症であったり、その後長期にわたって症状の一貫性が認められない場合などには、因果関係が否定され、請求が棄却されるリスクがあります。


 

第3章 ヘルニアの素因減額の割合と裁判例の傾向

素因減額が認められる場合、最も気になるのは「一体どれくらいの割合で賠償金が減らされてしまうのか」という点でしょう。
この減額の割合は、最終的に裁判所が損害の公平な分担という理念に基づき、個別の事情を総合的に考慮して決定します。

1. ヘルニアに関する減額割合の一般的な傾向

椎間板ヘルニアに関する裁判例では、減額を肯定される場合、多くは2割から3割の減額がなされる傾向にあります。

  • 減額の割合を決める主な考慮要素
    • 疾患の種類、態様、程度(平均値からの乖離度、事故前の通院状況など)
    • 事故の態様、程度と、傷害の部位、程度、そして結果(後遺障害)との均衡

2. ヘルニアの部位・種類別の減額判例(具体的な例)

裁判所が下した具体的な判例は、減額交渉における強力な根拠となります。

部位・既往症の内容 後遺障害等級 減額割合 判例の傾向と特徴
無症状の椎間板ヘルニア 12級 35% 頸椎椎間板ヘルニアに対し、長年のラグビー歴の影響も考慮され、比較的高い減額割合が適用された例。
無症候性頸椎椎間板症 12級12号 30% 無症状であっても、疾患の寄与が大きいとされ減額が適用された例。
腰椎椎間板ヘルニア 12級 0% 本件事故前には症状が出ていなかったことなどから、素因減額が否定された例。

3. 「素因減額」か「因果関係の否定」か

保険会社は、素因減額だけでなく、そもそも**「ヘルニアの症状と事故の間に因果関係がない」と主張することがあります。
これは、素因減額が
一部の減額で済むのに対し、因果関係が否定されると損害の全てが認められなくなる**ため、被害者にとって最も深刻な事態です。

  • 交通事故の賠償金で最も大きな要素の一つが慰謝料です。
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第4章 不当な素因減額を回避・軽減するための具体的対策

保険会社から素因減額を主張された場合、適切に対処しなければ、本来受け取れるはずの賠償金を大幅に減らされてしまいます。
以下の対策を講じることが重要です。

1. 被害者が行うべき初期対応(立証の準備)

  • 症状の正確な伝達と記録:事故直後から、体の痛みやしびれなど神経症状の全てを医師に伝え、診療録に記載してもらう。
  • 適切な通院:事故による受傷の割に治療期間が長い場合、心因的素因既往症の影響を疑われることがあるため、医師の指示に基づく適切な頻度で通院することが重要です。

2. 弁護士に相談する最大のメリット

不当な素因減額を主張されたら、すぐに弁護士に相談すべきです。
弁護士は、保険会社との交渉において、以下のような法的・医学的知見に基づいた反論を行います。

  • ① 立証責任の転換の主張:素因減額の立証責任は加害者側にあるため、弁護士は保険会社に対し、根拠のない減額提案に対抗します。
  • ② 「個体差の範囲内」の主張:椎間板ヘルニアが**「個体差の範囲内」**であることを、医学文献や類似判例に基づき論理的に主張します。
  • ③ 賠償項目全体の最大化:素因減額が適用されたとしても、慰謝料や逸失利益の算定基準を裁判所基準に引き上げ、全体としての賠償額の増加を目指します。

素因減額や過失割合の決定には、交通事故民事裁判例集の判例が重要となります。

 

✍️ まとめ:ヘルニアの素因減額に悩んだら、専門的な弁護士の力を借りましょう

椎間板ヘルニアに関する素因減額の判断は、疾患の法的評価因果関係の有無、そして減額割合の適正性という複雑な論点を含んでいます。保険会社は、被害者の知識不足につけ込んで安易な減額を主張しがちです。

不当な減額を受け入れず、適正な賠償金を得るためには、判例と医学的知見に精通した弁護士による専門的なサポートが不可欠です。

交通事故の賠償金について疑問や不安を感じたら、すぐに弁護士にご相談ください。

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