交通事故の被害者で慰謝料を増額するために、弁護士に依頼するべきか

数年前までは、交通事故に遭われた被害者の方も、敢えて「弁護士に依頼する」という対応を取られなかった方も多いと思います。もっとも、最近では、弁護士による交通事故事件の広告も増え、交通事故発生⇒弁護士へ相談するという流れが定着してきたのではないかと思っています。

それでもまだ、弁護士に相談、又は依頼するという選択肢を選んでいない方、又はこの選択肢を選ぶかどうかを迷っている方がおられると思います。特に、「弁護士に依頼すると慰謝料が増額します」という趣旨の広告をしている弁護士事務所もあり、その真偽のほどを確認したい方も多いかと思います。

私からすると、厳密には必ずしも「増額する」わけではないと思います。あくまでも、増額する「可能性がある」に留まります。確かに、その可能性は高いと言っていいと思いますが、交通事故被害者の方々には、必ず増額するものではないという理解もきちんとして頂きたいと思っています。

私自身、「弁護士に依頼すると、慰謝料が増額する可能性があります」と宣伝することもあるため、誤解が生じないため、実際に弁護士に依頼すると慰謝料が増額するのか否か、なぜ増額する可能性があるのかという点を、これを機会にご説明させて頂きたいと思います。

 

交通事故慰謝料とは

「浮気をされた」、「痴漢をされた」、「パワハラをされた」こんな時に、しばしば「慰謝料を請求する」という言葉が使われます。

それでは、そもそも、慰謝料とはどのような意味を持つのでしょうか。

慰謝料とは、被害者の精神的苦痛に対する賠償金です。よく分からないと思いますが、精神的な苦痛を金銭で評価し、これを損害金として加害者が支払いましょうというように考えて頂きたいと思います。

そして、交通事故の被害者も、加害者又は保険会社に対して、この「慰謝料」を請求することが出来ます。

ただ、交通事故における「慰謝料」にはいくつか種類があることをご存知でしょうか。

私に交通事故の相談をしてくる方の中には、事故による迷惑料という意味と考えている方等、しばしば「慰謝料」の意味を誤解している方がおられるので、慰謝料にはいくつか種類があることをご説明しておきます。

慰謝料の種類

交通事故の被害者が、加害者に対して請求できる慰謝料には

①死亡慰謝料

②入通院慰謝料

③後遺症慰謝料

④その他の慰謝料

があると考えてください。

厳密に慰謝料を区別することは、容易ではありませんが、区別するのであれば、大まかにこのようになると思います。

区別のポイントとしては、何に対する精神的苦痛かという点です。

①の死亡慰謝料は、死亡者の相続人に認められる精神的慰謝料と説明されていることもありますが、厳密に言えば、亡くなった方本人の慰謝料も含みます。亡くなった方が亡くなる瞬間に感じる精神的苦痛に対する慰謝料が、相続人により相続されていると考える方が正しいと思います。なお、死亡慰謝料には、相続人固有の死亡慰謝料もあります。

ですので、

・死亡者本人

・相続人本人

の苦痛に対する慰謝料といえます。

②の入通院慰謝料は、入通院したことについての精神的苦痛に対する慰謝料です。

③の後遺症慰謝料は、後遺障害が認定された場合に、後遺障害が残存してしまったことについての精神的苦痛に対する慰謝料です。

④については、思い入れのある物を破壊されたことに対する慰謝料や、事故後加害者の対応が乱暴であったことに対する精神的苦痛等が挙げられると思います。

 

一般的な「慰謝料」とは

交通事故において、「慰謝料」と呼ぶものは、通常、上記4つのうち②の入通院慰謝料を指します。

弁護士が、「慰謝料が増額できる可能性があります」と必死に広告をしているのも、この入通院慰謝料を指していると思ってよいと思います。

この入通院慰謝料については、保険会社が賠償金の支払いをするに当たり、内部的に3つの基準を設けています。

なぜ、このような基準が設けられているのかは、私には分かり兼ねます。

ただ、このような基準が存在するがため、弁護士が介入すると、ほぼ自動的に慰謝料金額が上昇することが多いのです。

また、この金額が上昇してしまうため、加害者側保険会社は被害者側に弁護士が介入することを若干嫌がっているように思えます。

入通院慰謝料

3つの通院慰謝料の基準

では、3つの慰謝料基準とはどのようなものでしょうか。

この3つの基準には、

①自賠責基準

②保険会社基準

③弁護士(裁判所)基準

があります。

原則的には、番号順に金額が上がっていくと思って頂いて結構です(もっとも、後記のように、その例外は勿論あります。)。

このうち、②の保険会社基準は、①と③の間の金額を保険会社がその裁量によって決めているものであり、明確な基準はないと考えてもよいと思います。仮に明確な基準があったとしても、知っておく必要性は低い上、保険会社の内部的な話なので、明確なことは弊職も分かりかねますので、ここでは説明はしません。

なお、時折、任意保険会社基準の計算方法として、一定の表を掲げているホームページなどがありますが、弊職が事件を処理していて、「確かに、この計算方法に従って計算しているな」と納得したことはありません。これは、保険会社担当者が、自賠責基準を超えた金額を支払おうとしている際に、裁量により金額を調整しているからだと思います。私の考えに過ぎませんが、あまり任意保険会社基準を知っておく必要はないと思います。

 

自賠責基準

⑴自賠責基準とは、自賠責保険で決められた計算方法により算出された慰謝料金額です。

自賠責保険とは、交通事故が発生した際に、被害者の損害を最低限度(金120万円)保障するために設けられた、国による制度と考えて頂ければよいと思います。

この自賠責保険については、また別の機会に詳しくご説明したいと思っています。

この自賠責基準は、自賠責保険の趣旨とおり、最低限度の被害者の損害を補償するものなので、金額は低額となっています。

⑵自賠責基準による慰謝料の計算方法

自賠責基準による慰謝料の計算方法は、通院の日数に応じて、明確な基準で決められています。

その計算方法は、

①入通院期間(医療機関に治療していた期間)×4200円

又は

②入通院実日数(実際に入院していた・治療に行った日数)×2倍×4200円

です。

ここで、「又は」と申し上げたのは、①と②のいずれか低い方の金額が採用されるからです。

ここにいう「通院」とは、病院であっても整骨院であっても必要な治療と判断されれば、日数としてカウントされます。まとめますと、

・入通院期間 ×4200円

Or    

・入通院実日数の2倍×4200円

となります。

弁護士基準(裁判基準)

⑴ 一方、弁護士基準は、赤い本に記載されている下記別表Ⅰ、別表Ⅱに基づいて計算します。

下記表の見方は、通院期間と入院期間が重なるところの数字に1万円をかけます。

例えば、別表Ⅱの場合で、通院期間が1ヶ月(30日間)、入院をしていない場合、慰謝料金額は、19万円となります。

また、別表Ⅰは骨折等の客観的所見が明らかな重傷のような場合に用いて、捻挫、打撲等の客観的所見に乏しいものについては、別表Ⅱを用います。

むち打ちや骨折がない場合は、別表Ⅱを用いるという程度の理解でよいと思いますが、判断が微妙な場合は、相手方保険会社に説明を求める、弁護士に相談するということをお勧めします。

⑵ 別表を使う必要はありません

もっとも、このような表を見る必要もなければ、この表を使って計算する必要などありません。

現在は、入院日数、通院日数を入力すれば、自動的に計算をすることが可能なホームページがたくさんあります。そのホームページ上で、数字を入力すれば、まず間違いなく慰謝料の計算が出来ます。

ちなみに、私は、「河原崎法律事務所」所属の河原崎弘先生のホームページを使用して計算しています。

下記ホームページです。

http://www.asahi-net.or.jp/~zi3h-kwrz/law2consocalj.html

上記ホームページでは、①特に重傷②重傷③軽傷という3段階で計算できるのでとても便利です。

①、②が別表Ⅰ、③が別表Ⅱという理解でよいかと思います。

⑶通院日数の求め方

気を付けて頂きたいのは、通院日数の計算方法です(入院ではありません)。

別表Ⅰを使用する場合、実日数の3.5倍と通院期間のいずれか低い方を用いることが多いです。

別表Ⅱを使用する場合、実日数の3倍と通院期間のいずれか低い方を用いることが多いです。

この点は、微妙なところで、裁判になれば必ずしもこのような基準に従う必要がありませんが、保険会社との任意の交渉段階では、保険会社はこの日数計算の方法を用いてきます。

別表Ⅱ  表内の単位金額は1万円

別表Ⅰ 

慰謝料を具体的に計算してみよう

それでは、上記自賠責基準、弁護士基準を用いて、実際に入通院慰謝料を計算してみましょう。

事例の設定

事例1 Aさんが、4月1日に事故に遭い、骨折をして、手術のため事故日から8日間入院をして、9月27日まで病院でリハビリを行いました。リハビリや診断を受けるため、退院後合計33日通院しました。

なお、この場合、通院期間は180日、入院は8日、通院実日数は33日ということになります。

事例2 Aさんが、4月1日に事故に遭い、骨折はしなかったものの、むち打ち症に苦しみ、6月29日まで病院でリハビリを行いました。Aさんは、3ヶ月の間に、合計46日間通院しました。

なお、この場合、通院期間は90日、入院は0日、通院実日数は46日ということになります。

自賠責基準の場合

上記事例の場合、自賠責基準で計算すると、

事例1 

180日(通院期間)×4200円=75万6000円

8日(入院日数)+33日(通院実日数)=41日  

41日×2倍×4200円=34万4000円

このうち、低い金額は、34万4000円なので、この金額が慰謝料金額となります。

事例2 

90日(通院期間)×4200円=37万8000円

46日(通院実日数)×2×4200円=38万6400円

このうち、低い金額は、37万8000円なので、この金額が慰謝料金額になります。

弁護士基準の場合

一方、弁護士基準で計算しますと

事例1

骨折をしているため、別表Ⅰを用います。

また、33日(通院実日数)×3.5=115.5日<172日(180日-8日、通院期間)

となりますので、少ない実日数の115.5日が採用されます。

裁判/受傷を選び、入院8、通院期間115.5日が入力する数値です。

この数字を、河原崎先生のホームページで、「裁判/軽傷」を選び、入院を0、通院期間を90日として、入力して計算してみましょう。

http://www.asahi-net.or.jp/~zi3h-kwrz/law2consocalj.html

そうすると、98万円という数字が出てきますので、この金額が慰謝料金額ということになります。

 

事例2

むち打ち症状のため、別表Ⅱを用います。

また、46日(通院実日数)×3倍=138日>90日(通院期間)

となりますので、通院期間である90日(3ヶ月)が採用されます。

裁判/軽傷を選び、入院0、通院期間を90日と入力して計算してみましょう。

この数字を、河原崎先生のホームページで、「裁判/軽傷」を選び、入院を0、通院期間を90日として、入力して計算してみましょう。

http://www.asahi-net.or.jp/~zi3h-kwrz/law2consocalj.html

そうすると、53万円という数字が出てきますので、この金額が慰謝料金額ということになります。

 

各基準による計算額の比較

事例1

 自賠責基準 34万4000円

 弁護士基準 98万円

事例2 

自賠責基準 37万8000円

弁護士基準 53万円

ということになり、いずれの事例でも弁護士基準の方が高い金額となりますが、その差額は、事例1の場合63万6000円、事例2の場合、差額が15万2000円ということになります。

弁護士依頼により交通事故の慰謝料は必ず増額するわけではない。

上記のような計算を比較すると、相手方保険会社が、自賠責基準で慰謝料金額を提示してきた場合、弁護士に依頼すれば、ほぼ必ず慰謝料が増額するように思われますし、事例1のように、倍以上に増額する可能性がありますので、弁護士に依頼しない理由はないということになりそうです・・・。

しかしながら、以下の2つの観点から必ずしも慰謝料があまり増額しない場合があることを知っておきましょう。

①被害者側にも過失割合がある場合

②保険会社が弁護士基準により算定された金額の満額を認めない傾向にあること

過失割合により慰謝料額は変動する。

確かに、弁護士基準の場合には、自賠責基準より慰謝料が高額になる傾向にありますが、弁護士基準の場合には、過失割合分差引かれてしまうことに注意しなければなりません。

例えば、事例2の場合に、被害者側にも過失割合が3割認められるような事例であった場合、

自賠責基準だと、37万8000円

弁護士基準だと、53万円×70%=37万1000円となり、寧ろ、自賠責基準の方が高額になります。

保険会社の担当者によっては、弁護士が介入すると、それまでの過失割合の見解を急に覆す人もいますので、弁護士が介入することにより、寧ろ、争いが激化する場合もあることを認識しておきましょう。

弁護士に委任した場合の保険会社による示談段階における提示額

また、保険会社は、弁護士基準満額を無条件に認めない場合がほとんどです。

保険会社は、弁護士が介入した後でも、訴訟外交渉であることを理由(まだ、裁判になっていないという意味です。)に、弁護士基準の8割程度で示談してくれないか、と提案してきます。

平成26年くらいまでは、私も弁護士基準全額でなければ、示談はしないという強い態度で保険会社と交渉に挑んでいましたが、最近では、このように強い態度で挑んでも、示談してくれない担当者が増えたという感触です。

そのため、弁護士基準の9割~9割5分程度で示談することが多いです。

そうなると、事例2の場合だと、47万7000円くらいで和解が成立する可能性があるため、弁護士基準と自賠責基準との差額は、約10万円程度に過ぎないこととなり、弁護士費用との兼ね合いによっては、弁護士に依頼する意味がない可能性が出てきます。

交通事故の被害者になった場合、弁護士へ相談・依頼をすべきであるのか。

それでは、上記のように、過失割合がある場合、自賠責基準により計算した慰謝料額と弁護士基準での慰謝料額に大きな差額がない場合、弁護士に相談・依頼をして、実益があるのでしょうか。

弁護士特約に加入している場合

弁護士特約とは、自動車保険や各種損害保険に付与されている特約で、保険会社が弁護士費用を負担してくれるものです。

弁護士特約に加入している場合、弁護士費用をあなた自身で負担をしなくてよくなるわけですから、迷わずに弁護士に相談、依頼をしてよいです。

増額が見込めるか否かを無料で確認できるうえ、増額が見込めるのであれば、弁護士費用を負担せず、慰謝料の増額分得をするのですから、依頼しない理由はほぼないと言ってよいのではないでしょうか。

現在は、自動車保険に弁護士特約が付与されている場合が多いです。保険代理店の人が、いつの間にか特約を付けてくれていたということも多々あるので、自分の保険内容を確認してみましょう。また、同居の親族が入っている保険でも使用できる場合があるので、同居の親族の保険も確認してみましょう。

弁護士特約に加入していない場合

弁護士特約に加入していなくても、迷わず弁護士に電話相談をしてみましょう。

ここで大事なのは、電話である程度回答をしてくれる弁護士か否かです。

電話で、ある程度話をすれば、交通事故を多数扱っている弁護士であれば、すぐに増額見込み額をご説明できるはずです。

そして、必ず弁護士に2点を確認してください。

①慰謝料増額見込み額

②弁護士費用の金額

この2つを電話で回答してもらえれば、弁護士に依頼をして得か、損か、得でも損でもないかということがすぐに解決できます。わざわざ、弁護士事務所まで赴いて、その実益を確認するまでもありません。

現在では、交通事故については、無料法律相談が出来る法律事務所がほとんどです。

私も、交通事故については、初回電話法律相談を無料にしています(但し、弁護士特約が付いていない場合です。)。

ですので、まずは迷わず増額見込み額を電話で聞いてみることです。

着手金無料の場合(いわゆる成功報酬方式)でも、弁護士費用は、通常最低でも10万円は、かかってしまうという点を頭に入れつつ、電話をしてみるとよいと思います。

なお、弁護士費用の説明については、別の機会にじっくり説明させて頂きたいと思います。

それでも弁護士に相談をすべき

では、自分で自賠責基準、弁護士基準を計算したところ、差額が僅少である場合に、弁護士に相談もせずに、何もしないという選択をすべきでしょうか。

私は、必ず弁護士に相談すべきだと思います。

その理由は、慰謝料以外の損害額が増加する可能性があるからです。

私が多数の交通事故被害者の方々から相談を受ける中で、慰謝料の増額見込をお聞きしてくるだけで、入通院慰謝料以外の損害の問題に気付いておられない方が少なからず見受けられます。気づいていない損害について、弁護士が介入することにより、大幅に増額した事案もあります。

特に以下の損害項目に気付かないことが多いと思います。

①主婦の方の休業損害(家事休業損害)

②後遺障害の認定の可能性

③後遺障害慰謝料

④車両の買い替え費用損害

⑤車両の評価損(格落ち)

特に①、②については、保険会社の提示額が低額であることが多く、入通院慰謝料よりも増額が見込める事案がかなりあると実感しています。

また、③については、後遺障害が認定されないものだと思い込んでいる方もおられますので、念のため弁護士に相談して、確認をするべきだと思います。

 

結論

そこで、弁護士に入通院慰謝料について相談・依頼をするか迷った時には、

①弁護士にとりあえず相談をする。

②入通院慰謝料増額見込み金額を弁護士に聞いてみる。

③かかる弁護士費用と比較して、依頼をする価値があるか確認する。

④慰謝料以外の損害が増加する可能性がないか弁護士に確認する。

まとめ

①慰謝料とは、入通院慰謝料を言うことが多い。

②入通院慰謝料の計算方法には、自賠責基準、弁護士基準を用いて計算することが多い。

③自賠責基準は、4200円/日×入通院期間or入通院実日数×2倍で計算される。

④弁護士基準は、計算ツールが掲載されているホームページを使用する。

⑤弁護士への依頼により、入通院慰謝料が増額する可能性が高い。

⑥無料法律相談をしてる弁護士事務所が多い。

⑦事故発生から出来るだけ早く弁護士に相談をしてみる。

です。

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