交通事故後の自賠責保険申請ガイド:被害者請求の手続きと注意点
交通事故が発生した場合、加害者側の自賠責保険会社より、治療費などの人身損害について最低限度の補償を受けることができます(被害者が自賠責保険に請求することを被害者請求といます)。では、実際にどのように被害者請求をすればよいのでしょうか。
今回は被害者請求の具体的流れ、請求に必要な書類、具体的手続について、お伝えしていきたいと思います。
これから被害者請求を行う予定のある方、被害者請求をご自身で行おうとしている方に参考にしていただければ幸いです。
目次
自賠責保険金支払いまでの流れ
まず、被害者請求手続きの流れについて説明をしていきます。
- ①被害者請求に必要な請求書類をそろえる
※詳細は、後述します。
- ②請求書類の提出
提出先は「事故証明書に記載された加害者側自賠責保険会社」。
この自賠責保険会社により、請求書類の簡単な確認作業が行われます。
- ③審査の開始
自賠責保険会社から自賠責損害調査事務所(正確には、損害保険料率算出機構)に被害者請求書類が引き継がれ、書類に不備がないか、交通事故と発生した損害との因果関係はあるか、損害額はいくらか、後遺障害等級に該当するか等の審査がされます。
- ④追加の調査
自賠責損害調査事務所から、さらなる調査が必要と判断された場合に、医療機関などから書類を取り寄せする為に必要な同意書の提出を求められます
(または、直接特定の資料・画像データ等を請求者側が取得した上で、自賠責損害調査事務所へ提出します)。
- ⑤審査結果の回答書が届く
自賠責損害調査事務所による調査が終了し、窓口となっていた上記自賠責保険会社から調査結果、認定結果が届きます。
- ⑥保険金が振り込まれる
保険金の支払い認定がされれば、自賠責保険会社から、保険金が被害者が指定した口座に支払われます。
②~⑥までにかかる時間はおおよそ1カ月、場合によっては1カ月以上かかるケースがあります。
※⑤、⑥は前後する場合があります。
被害者請求で提出が必要な書類について
被害者請求には、
①治療費・休業損害・交通費・慰謝料等、「傷害部分」を請求する場合
②「後遺障害による損害」すなわち、後遺障害の認定を求める請求をする場合
があります。
被害者請求に必要な資料は、治療費の金額や治療状況の分かる資料がメインとなります。以下では、必要な資料についてどのようなものがあるのか一つずつ説明をしていきます。
①、②に共通する書類
ア 自動車損害賠償責任保険支払請求書
内容としては、交通事故証明書を参照し、当事者情報、加害者側の自賠責番号、事故日、振込先口座等を記載します。
イ 印鑑登録証明書・委任状
被害者の印鑑登録証明書が必要となります。弁護士が委任を受けて請求を行う場合は、委任状と弁護士の印鑑登録証明書も追加で添付する必要があります。
ウ 交通事故証明書
交通事故証明書は、自動車安全運転センターから取り寄せることができます。
任意保険会社が関与している場合は、保険会社が既に取得していることが多いため、保険会社から取り寄せをします。その際は交通事故証明書の写しに「原本と相違ない」ことを証明する印鑑を押印していただくとよいでしょう。
エ 人身事故証明書入手不能理由書
交通事故証明書の記載が物損扱いになっている場合、人身事故とならなかった理由について記載する書面となります。物損扱いとなっていた理由としては、事故当時は痛みを感じなかった、加害者側への配慮等の理由があります。交通事故証明書の右下部分に「人身事故」か「物件事故」どちらかになっているので確認をしましょう。
オ 事故発生状況報告書
事故現場とご自身の車と加害者の車がどのように衝突したのか図で表し、文章で説明をする書面になります。
弁護士に依頼している場合は、実況見分調書という警察が作成した事故状況図を取り寄せし、添付することもあります。交通事故証明書の記載が物損扱いの場合は実況見分調書が作成されない為、その点でも人身事故扱いにしてもらうことをお勧めします。
カ 診断書・診療報酬明細書
診断書は病院に作成のお願いをすることになります。任意保険会社が立て替えて治療費支払いをしている場合は、保険会社から取り寄せします。
治療費の打ち切り後も通院が必要な場合は、直接通院先に対して作成を依頼します。
診療報酬明細書は、病院でどのような治療をしたかなどが分かる資料になります。診断書同様、病院に作成をお願いすることになります。
キ 施術証明書
整骨院に通院している場合は、施術証明書の取り寄せが必要となります。
ク 調剤報酬明細書
薬局から薬を処方されている場合は、取り寄せが必要となります。
ケ 労災で治療している場合 診療費請求内訳書
労災により、治療を行っている場合は診療費請求内訳書が必要となります。通院先から取得できない場合があるので、その際は通院先を管轄する労働局に対し請求をします。
コ 健康保険で治療している場合 領収書(請求書)、診療明細書
任意保険会社が関与していない場合や、治療費打ち切り後に健康保険で治療継続する場合に必要となります。必ず通院先から受領した領収書(請求書)、診療明細書をとっておきましょう。
②後遺障害の認定を求める請求をする場合のみ使用する資料
サ 後遺障害診断書
後遺障害等級認定のために必ず必要な資料です。後遺障害診断書にはお体の不具合や痛み等を記載してもらいます。症状固定となった際に通院先に作成を依頼しましょう。整骨院では後遺障害診断書の作成は行っていないため、ご注意ください。
また、医師全員が後遺障害等級認定に関して十分な知識を持っているわけではない為、医師が気づかずに等級認定に不利になる記載をしてしまっている場合もあります。よって作成された診断書は一度弁護士に確認をしてもらうことをお勧めします。
シ 画像 CD-R
こちらも後遺障害等級認定のために必要な資料となります。レントゲンやMRIなどの電子記録を通院先で撮っている場合は全ての通院先から取り寄せをしましょう。
ス その他損害を立証する書類
後遺障害を認めてもらうために、物損資料(修理費見積書、事故時の車の写真)、画像鑑定書、カルテ、症状の推移について所見、被害者の陳述書などを提出することもあります。必ずしも必要な資料ではありませんが、提出することで後遺障害等級認定に効果的な資料となります。
①傷害部分の請求をする場合のみ使用する資料
セ 休業損害証明書、収入資料
交通事故が原因で仕事をお休みしたことにより、給料が減ってしまった等の休業損害が発生した場合に提出する資料となります。会社員の場合は休業損害証明書を会社に作成してもらう必要があります。また、源泉徴収票の添付が必要です。
自営業の場合は、確定申告書を提出します。
ソ 通院交通費明細書、領収書
通院方法(自家用車、公共交通機関、タクシーなど)、通院経路、通院にかかった費用を記載して提出する資料となります。
タクシー代、駐車場代の領収書はとっておくようにしましょう。
また、タクシー代を損害として認めるのは例外的な扱いになり、タクシーを利用する必要性がないと判断された場合は認定してもらえない可能性がありますのでご注意ください。
タ 文書料の領収書(請求書)
診断書、診療報酬明細書等の文書料についても請求することが可能です。領収書を必ず取っておきましょう。
その他の資料
死亡事故の場合 死亡診断書、被害者の出生から死亡までの戸籍謄本、葬儀費用の領収書など
交通事故により被害者が亡くなられた場合は提出が必要です。
死亡診断書は病院で作成してもらう必要があります。戸籍謄本は役所で取得可能です。
仮渡金支払いに関する念書
仮渡金の申請をする際に必要となります。
被害者請求の注意点
時効がある
自賠責保険に対する被害者請求には、3年という時効があります。「事故」から3年を経過すると、請求ができなくなる可能性があるため、気を付けてください。
- 傷害部分の請求の場合、交通事故があった日の翌日から3年以内
- 後遺障害部分の請求の場合、症状固定日の翌日から3年以内
- 死亡事故の場合、死亡した日の翌日から3年以内
時間がかかる
被害者請求に必要な資料は膨大で、どのような資料が必要かについても慣れていないとスムーズに収集に動くことが難しいと思います。さらに、通院先などに書類作成を依頼するにも発行までに数週間かかることもあります。
費用がかかる
通院先へ診断書、診療報酬明細書、画像(CD-R)等を取得するにあたり、費用が発生します。不慣れな状態で、誤った書類を取得してしまった場合は、その費用について補償してもらえない場合があります。
診断書作成代金は、1通5000円~1万円くらいかかります。
納得のいく認定を受けられない可能性がある
後遺障害等級認定のための被害者請求を行ったものの、後遺障害非該当と判断されてしまったり、低い等級で認定されてしまったというケースがあります。
納得のいく認定結果を得るためには、提出書類の質を上げ、効果的な追加書類を添付することが重要であり、専門的な知識が必要になってきます。
まとめ
ご自身で被害者請求を行うことは手間もかかり、知識不足のため十分な認定を受けられない場合があります。その問題は弁護士に依頼することで取り除くことができます。
①資料収集は基本的に弁護士に任せられる
②弁護士費用特約を使用すれば費用の負担は原則かからない(後遺障害診断書の取得は自己負担)
③適正な後遺障害等級認定を受けるために必要な資料を知っている
被害者請求をこれから行う方、既に行ったが満足のいく結果を得られなかった方は、ぜひ交通事故専門の弁護士に相談されることをお勧めします。