財産開示手続とは?申立ての流れ・必要書類・開示期日の対応まで弁護士が分かりやすく解説!
目次
財産開示手続とは?基本的な流れと概要解説
交通事故加害者の中には、任意保険に入っていない人がいます。
この場合、被害者に損害が発生し、裁判で加害者に対する勝訴判決を取っても、強制執行が成功しなければ、実質的に被害者の損害の回復は達成できていません。
加害者の資産に対する強制執行が功を奏しない際に、最後の手段として選択されるのが財産開示手続きです。
この財産開示手続は、債権者が債務者の財産状況を明らかにし、債権回収の実効性を高めるための手続で、裁判所が指定する開示期日において、債務者が自身の財産を裁判所で陳述することを義務付けるものです。
今回は、この財産手続の概要について、弁護士が、簡単に解説していきます。
財産開示手続の目的と背景
ア 財産開示手続の目的
財産開示手続の目的は、債務者の財産情報を正確に把握し、債権回収の可能性を高めることにあります。具体的には、以下のような目的で活用されます。
- 債務者の財産情報の取得(不動産、預貯金、給与など)
- 強制執行の実効性の向上(差押え可能な財産の特定)
- 支払意思の確認(財産状況が明らかになることで、自主的な支払いを促す効果)
イ 財産開示手続の背景
以前は、債権者が債務者の財産情報を正確に把握する手段が限られており、強制執行が機能しにくいという問題がありました。
そこで、2003年の民事執行法改正により、債務者に財産を開示させる手続が導入されました。
また、2020年の改正では、実効性を高めるために、開示義務違反に対する罰則が強化され、出頭しない場合の過料(罰金)や懲役刑が科されるようになりました。これにより、従来の手続に比べて債務者が財産開示を怠るリスクが大きくなったことが特徴です。
手続を開始するための基本的な条件と要件
財産開示手続を利用するには、一定の条件を満たす必要があります。以下の要件を確認した上で申立てを行いましょう。
ア 申立てができる人
財産開示手続の申立てができるのは、執行力のある債務名義を有する債権者です。具体的には、以下のような債務名義を持つ人が対象となります。
- 判決(仮執行宣言付判決を含む)
- 支払督促(仮執行宣言付)
- 民事調停調書
- 和解調書
- 公正証書(強制執行認諾文言付き)
また、一般の先取特権を有する債権者(例:給料の先取特権を持つ労働者)も、財産開示手続を利用することができます。
イ 申立ての要件
申立てには、以下の要件を満たす必要があります。
① 強制執行の開始要件を備えていること
- 債務者に対し、執行力のある債務名義が送達されていること。
- 強制執行の条件が満たされていること(期限が到来しているなど)。
- 債務者が破産手続開始決定などを受けていないこと(破産手続中の債務者に対する財産開示手続は不可)。
② 以下のいずれかの条件を満たしていること
※※ とくに重要 財産開示手続は、一定の債権回収行為を行った後の、最後の手段です。
- 強制執行や担保権実行により、債権の完全な回収ができなかった
- 知れている財産に対する強制執行を実施しても、債権の全額を回収できない
- 過去3年以内に財産開示を受けていない
※ もし過去3年以内に財産開示手続が実施されていた場合は、新たな財産の取得や、未開示の財産があることを立証する必要があります。
申立から手続開始までの具体的な流れ
財産開示手続の流れは、申立て → 実施決定 → 期日指定 → 財産開示期日という順で進行します。
① 申立ての概要
- 申立先: 債務者の住所地を管轄する地方裁判所(法人の場合は本店所在地)
- 申立手数料: 2,000円(収入印紙)
- 郵便切手代: 6,000円相当の郵便切手
- 必要書類:
- 財産開示手続申立書
- 当事者目録
- 請求債権目録
- 債務名義の正本
- 送達証明書
- 財産調査結果報告書(必要に応じて)
② 裁判所による実施決定
裁判所が申立てを適法と判断した場合、財産開示手続の実施決定を行います。決定後、開示期日が指定され、債務者に呼出状が送付されます。
③ 開示期日の指定と通知
- 財産開示期日は、決定確定から約1か月後に設定されます。
- 債務者には、**財産目録の提出期限(開示期日の約10日前)**も指定されます。
- 提出された財産目録は、裁判所の許可を得た者のみ閲覧可能です。
④ 財産開示期日
- 債務者の義務:
- 裁判所に出頭し、財産状況を陳述すること。
- 虚偽の陳述をした場合や出頭しない場合は刑事罰の対象となる。
- 債権者の対応:
- 裁判所の許可を得た上で質問可能。
- 事前に質問書を提出しておくとスムーズに進む。
⑤ 債務者が開示期日に出頭しない場合
- **過料(最大50万円)**が科される可能性あり。
- 悪質な場合、6ヶ月以下の懲役または50万円以下の罰金が科されることも。
財産開示手続に必要な書類と作成方法
財産開示手続きをスムーズに進めるためには、必要書類の正確な作成と提出が欠かせません。ここでは、財産開示手続きに必要な書類、作成方法、提出時の注意点について解説します。これらの情報をもとに、適切に準備を進めましょう。
なお、実際に手続きを行う準備をしている方は、裁判所のHPを参考にしながら進めるとよいです。
https://www.courts.go.jp/tokyo/saiban/minzi_section21/zaisankaizi/index.html
申立てに必要な書類一覧と記載方法
財産開示手続きに申立てをするためには、以下の書類を準備する必要があります。
① 申立書
- 記載内容: 債権者が債務者に対して財産開示を求める理由や請求する債権額を記載します。債務名義や請求額、債務者の住所など、基本的な情報を記入します。
- 注意点: 債務名義(判決や支払督促など)の記載内容を明確に記載し、債権者の立場を具体的に説明することが重要です。
② 当事者目録
- 記載内容: 申立てに関係する当事者(債権者と債務者)の氏名・住所を記載します。代理人がいる場合はその情報も記載します。
- 注意点: 債務名義の当事者情報に変更があった場合は、変更後の情報を明記し、変更証明書(住民票、戸籍謄本など)を添付します。
③ 請求債権目録
- 記載内容: 請求債権(債務者に対する金銭的請求)の内容とその金額を明記します。債務名義に基づいて、請求額の詳細を記載します。
- 注意点: 請求額の内訳や、遅延損害金などの附帯請求についても明確に記載することが求められます。
④ 財産調査結果報告書
- 記載内容: 財産調査の結果を記載し、債務者が保有する可能性のある財産(不動産、預金口座、債権など)をリスト化します。
- 注意点: 財産調査結果が不完全な場合は、その理由を明記し、実施した調査内容を詳細に記録します。
⑤ 必要な証拠書類
- 記載内容: 申立てに関連する証拠書類(判決文、執行文など)を添付します。
- 注意点: 証拠書類は正確かつ最新のものを提出し、必要に応じてコピーを添付します。特に、破産手続きや再生手続きに関する証拠が必要な場合もあるため、確認を怠らないようにしましょう。
裁判所への提出時に注意すべき事項
裁判所への書類提出は、手続きがスムーズに進むための重要なステップです。以下のポイントを押さえて、提出時に必要な事項を漏れなく対応しましょう。
① 書類の正確性と整合性
- 提出する書類には、間違いや漏れがないか、再度確認しましょう。特に、財産目録や証拠書類の記載内容が正確であることが求められます。記載内容に誤りがあると、訂正を求められ、手続きが遅れる可能性があります。
② 書類の提出方法
- 申立て書類は、管轄裁判所に提出します。提出方法には、直接裁判所に持参する方法や郵送する方法があります。郵送の場合、必要な切手や封筒を用意することが重要です。裁判所の指示に従い、提出方法を確認しておきましょう。
③ 必要なコピーを準備する
- 申立書や証拠書類には、原本とそのコピーを提出することが一般的です。特に、証拠書類や財産調査報告書は、複数部の提出が必要となる場合があるため、必ずコピーを準備しておきましょう。
財産開示手続における期日と当事者の対応
財産開示手続において、開示期日は手続きの核心となる重要な場面です。この期日では、債務者が裁判所に出頭し、自身の財産状況を明らかにしなければなりません。
また、債権者も出頭し、裁判所の許可を得た上で債務者に対して質問を行うことが可能です。
債務者が虚偽の陳述をした場合や出頭しなかった場合には刑事罰が科される可能性があるため、債務者・債権者の双方にとって慎重な準備が必要となります。
ここでは、開示期日の具体的な流れ、当事者の準備すべき事項、債務者が出頭しなかった場合のリスクについて詳しく解説します。
開示期日の流れと実施内容
開示期日は、裁判所が指定する日時に、債務者が財産状況を陳述するために出頭する場面です。
通常、開示期日は財産開示実施決定の確定後、約1か月後に設定されます。
開示期日の基本的な流れ
① 開示期日への出頭
- 債務者(開示義務者)は、裁判所が指定した開示期日に出頭する義務があります。
- 債権者も開示期日に出頭することが推奨されます。
② 債務者による財産状況の陳述
- 債務者は、所有する財産(不動産、預貯金、給与、動産など)について裁判所で陳述します。
- 裁判所の指示に従い、財産開示目録を基に具体的な内容を説明します。
③ 債権者による質問
- 債権者は、裁判所の許可を得た上で、債務者に対して財産状況について質問することができます。
- ただし、探索的な質問や債務者を困惑させる質問は禁止されています。
- 円滑な進行のため、事前に質問書を提出することが推奨されます。
④ 裁判所の確認
- 裁判官が債務者の財産状況を確認し、必要に応じて追加の質問を行います。
- 陳述内容が不十分な場合、再度確認を求められることもあります。
⑤ 開示期日の終了
- 裁判所が必要な確認を終えた時点で、開示期日は終了します。
- その後、債権者は開示された財産情報を基に、別途強制執行の申立てを行うことが可能になります。
債権者と債務者の具体的な準備と対応策
開示期日に臨むにあたり、債権者と債務者はそれぞれ慎重な準備が必要です。
ア 債務者の準備
債務者は、以下の点を事前に準備する必要があります。
① 財産目録の提出
- 開示期日の約10日前までに、財産目録を裁判所に提出する必要があります。
- 財産目録には、不動産、預貯金、給与、動産、債権などを正確に記載することが求められます。
② 裁判所での陳述の準備
- 提出した財産目録に基づいて、裁判所で説明できるよう準備する必要があります。
- 不明点がある場合は、事前に弁護士に相談し、対応策を検討することが重要です。
③ 期日に出頭する義務
- 開示期日には必ず出頭する必要があります。無断で欠席した場合は罰則の対象となるため、予定を調整しておく必要があります。
イ 債権者の準備
債権者は、開示期日を効果的に活用するために、以下の準備を行うべきです。
① 事前の財産調査
- 債務者の所有財産について、可能な範囲で事前に調査しておくことが重要です。
- 調査結果を基に、開示期日に適切な質問ができるようにしておきます。
② 質問書の作成
- 開示期日当日に質問できる内容は、裁判所の許可が必要となるため、事前に質問書を作成・提出しておくことが推奨されます。
- 具体的には、「所有する不動産はどこにあるのか?」「給与振込口座はどの銀行か?」といった、差押えの実効性を高めるための質問を準備することが有効です。
③ 裁判所への出頭
- 開示期日に出頭し、債務者の財産状況について質問することで、より詳細な情報を得ることが可能になります。
期日に出頭しない場合のリスクや罰則
開示期日に債務者が出頭しない場合、裁判所は一定の制裁措置を講じることができます。これには、行政上の過料や刑事罰が含まれます。
① 過料(最大50万円)
債務者が正当な理由なく開示期日に出頭しない場合、裁判所は民事執行法に基づき、50万円以下の過料を科すことができます(民事執行法213条1項)。
② 懲役または罰金
さらに、悪質な場合には刑事罰の対象となることがあります。
❌ 出頭拒否や虚偽陳述を行った場合
- 6ヶ月以下の懲役または50万円以下の罰金が科される(民事執行法213条2項)。
このように、開示期日に出頭しなかったり、虚偽の財産状況を申告した場合、刑事処分を受ける可能性があります。
③ 再度の呼出し
債務者が開示期日に出頭しなかった場合、裁判所は改めて呼出しを行う場合があります。
しかし、それでも出頭しない場合、裁判所は前述の罰則を適用し、強制的な措置を講じる可能性があります。
まとめ|財産開示手続の全体像と活用ポイント
財産開示手続は、債権者が債務者の財産状況を明らかにし、債権回収の実効性を高めるための重要な手続です。本記事では、財産開示手続の概要、申立ての要件と流れ、必要書類の作成方法、開示期日における当事者の対応について詳しく解説しました。
✅ 財産開示手続のポイント
- 申立てには執行力のある債務名義が必要(判決、公正証書など)
- 債権回収が困難な場合に利用可能(強制執行が未完了or知れている財産では回収不十分)
- 必要書類の正確な作成・提出が重要(債務名義、送達証明書など)
- 開示期日には出頭義務あり(虚偽の陳述や不出頭には罰則)
✅ 債権回収のための実践的な活用方法
財産開示手続は、単独で債権回収が完了するものではなく、強制執行と組み合わせて活用することが重要です。
例えば、開示された財産情報を基に、給与差押えや預貯金の差押えを行うことで、実際の回収へとつなげることができます。
債務者が開示義務を怠った場合には、過料や懲役刑のリスクがあるため、従来よりも開示率が向上していると考えられます。
債権者としては、この手続を適切に活用し、効果的な回収戦略を立てることが重要です。
財産開示手続に関する具体的な相談や申立てのサポートが必要な場合は、弁護士に相談することをおすすめします。
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