高次脳機能障害で障害者手帳を取得する条件と等級|申請の診断書と手続きの流れ

高次脳機能障害 障害者福祉手帳

高次脳機能障害で障害者手帳を取得する条件と等級|申請の診断書と手続きの流れ

高次脳機能障害は「見えない障害」とも呼ばれ、記憶障害や遂行機能障害といった症状が、社会生活や就労に大きな影響を及ぼします 
しかし、この障害が残っても、障害者手帳を取得することで、適切な福祉的支援を受けることが可能です。

この記事では、高次脳機能障害の患者様やご家族が精神障害者保健福祉手帳を取得するための条件等級の目安、そして申請の際に最も重要となる医師の診断書について、手続きの流れを追って分かりやすく解説します。

1. 高次脳機能障害と障害者手帳:取得できる手帳の種類

高次脳機能障害は、脳の損傷という器質的な原因から、認知機能、精神状態、さらには身体機能にまで影響を及ぼす複合的な障害です
そのため、症状の現れ方に応じて複数の手帳の適用が考えられます。

1-1. 高次脳機能障害者が主に取得できる①「精神障害者保健福祉手帳」

高次脳機能障害の主要な症状には、記憶障害注意障害遂行機能障害(計画・実行の困難さ)、そして感情や行動の障害(易怒性、社会性の低下など)が含まれます 

これらの認知機能の障害や精神症状が社会生活上の制約となっている場合精神保健及び精神障害者福祉に関する法律に基づき、最も一般的に申請されるのが①精神障害者保健福祉手帳です 
これは、高次脳機能障害が原因であっても、その主たる行政上の認定は、「精神障害」の枠組みの中で行われるためです 

1-2. ②身体障害者手帳や③療育手帳(愛の手帳)との違い

高次脳機能障害は、その症状に応じて、精神障害者保健福祉手帳以外の手帳の適用についても併せて検討する必要があります。

  • ②身体障害者手帳との境界線: 脳損傷の結果として生じた手足の麻痺(肢体不自由)や視野の障害、あるいは失語症といった身体的・器質的な障害が永続的に残った場合は、身体障害者手帳の対象となります 
    特に、
    失語症は行政区分上は身体障害者手帳の「音声・言語機能障害」として認定される可能性があります 
    重度の身体症状を伴う場合は、両手帳の併給も推奨されます 
  • ③療育手帳(愛の手帳)との違い: 療育手帳は知的障害を持つ者が対象です 
    高次脳機能障害の場合、
    発症(受傷)したのが18歳未満の発達期であり、かつ自治体が指定する機関において知的障害と判定された場合にのみ、療育手帳の申請対象となります 

1-3. 手帳を取得するメリット(生活・就労・税金面)

①精神障害者保健福祉手帳を取得することで、高次脳機能障害によって生じた生活上および経済的な困難を軽減するための公的支援を受けることができます

  • 就労支援: 障害者雇用促進法に基づく障害者雇用枠を利用した就職・転職活動が可能となります 
  • 福祉サービス: 障害者総合支援法に基づく生活支援、地域活動支援、訪問介護などの福祉サービスや、自立支援医療制度(医療費の自己負担額軽減)の利用が可能となります 
  • 経済的メリット: 所得税・住民税の障害者控除、相続税の控除、自動車税の減免措置、公共交通機関や公共施設利用料の割引などが挙げられます 

2. ①精神障害者保健福祉手帳の等級認定基準と目安

精神障害者保健福祉手帳の等級は、障害の程度に応じて1級、2級、3級に分類されます 
認定は、
精神障害が日常生活および社会生活に与える制限の程度によって決定されます 

2-1. 認定の条件:記憶・遂行・行動などの症状がカギ

高次脳機能障害による等級認定において、鍵となるのは、記憶、注意、思考、感情、行動といった機能の障害が、社会生活能力にどれだけ影響を及ぼしているかという評価です 

この点は、交通事故による高次脳機能障害に基づく後遺障害認定と共通する点が大きいです。

特に重視されるのは、以下の「日常生活能力の判定項目」で、本人が自発的かつ適切にできるか、援助がどの程度必要かです 

  • 適切な食事摂取
  • 身辺の清潔保持、規則正しい生活(清掃など)
  • 金銭管理と買物
  • 通院と服薬
  • 他人との意思伝達・対人関係
  • 身辺の安全保持・危機対応

2-2. 等級の目安:日常生活能力の障害度による分類

等級の判断は、「日常生活能力の程度」の区分(オ:身の回りのことはほとんどできない~イ:日常生活又は社会生活に一定の制限を受ける)に基づいています 

等級 日常生活能力の程度(定義) 日常生活における制約の具体的なイメージ
1級 極めて困難で、常時援助が必要(オに相当)。 全ての項目において、常時、全面的な援助が必須となる状態 

 

2級 著しい制限を受け、常時または随時の援助が必要(エまたはウに相当)。 「エ」の場合:自発的な外出が不可能で、常時付き添いが必要 「ウ」の場合:日常的なストレスに対処困難。食事の用意などの家事や金銭管理に助言や援助が必要となる状態 

 

3級 日常生活又は社会生活に一定の制限を受ける(イに相当)。 一人での外出や日常的な金銭管理はおおむね可能だが、非日常的な状況や複雑な社会的手続への対応が困難 。対人関係の構築が不安定な状態 

 

福祉的配慮のある事業所(障害者雇用枠やA型事業所など)で一般就労をしている場合であっても、社会生活に「一定の制限」を受けていると見なされ、3級の対象となる可能性があります

3. 手帳申請に必要な書類と手続きの流れ

手帳の申請手続きは、申請時期の規定と、診断書の正確性が重要です。

3-1. 申請に必要な2つの主要書類

  1. 申請書: 自治体の窓口で入手。
  2. 医師の診断書(所定の様式): 精神保健指定医その他精神障害の診断または治療に従事する医師が作成したもの。
    障害年金を受給している場合は、その年金証書の写しで診断書に代えることが可能です 。

3-2. 診断書作成時の注意点と家族の役割

申請時期の厳守:「初診日から6か月経過後」の規定

手帳の診断書は、主たる精神障害の初診日から6か月以上経過した時点で作成されたものでなければなりません 
これは、症状が固定し、長期的な支援が必要な状態であることを行政が確認するための措置です 

急性期や不安定な状態での申請は避ける必要があります。

生活能力の評価基準と家族の役割

診断書作成において、医師が評価する「日常生活能力の程度」は、保護的な環境から離れ、例えばアパート等で単身生活を行った場合の自立度を想定して判断されることに最大の注意を払う必要があります 

高次脳機能障害の主要な特性である自己洞察性の低下により、当事者は「問題なくできている」と医師に報告しがちです。

適切な等級認定(特に2級や1級)を得るためには、家族や支援者は、以下の情報を詳細に記録し、医師に提供することが最も重要となります 

  • 現在、家族が実際に行っている援助の内容(具体的な指示、声かけ、金銭管理の代行など)。
  • 単身生活を想定した場合の危険性(自傷行為のリスク、火の不始末、金銭トラブルなど)。

行動や情緒の障害の具体的な記録方法については、こちらの記事も参考に、詳細なメモを作成してください。

怒りやすい・子供っぽい行動への具体的な対応と記録

https://clkoshigaya-rousai.com/%e9%ab%98%e6%ac%a1%e8%84%b3%e6%a9%9f%e8%83%bd%e9%9a%9c%e5%ae%b3/%e6%80%92%e3%82%8a%e3%82%84%e3%81%99%e3%81%84%e3%83%bb%e5%ad%90%e4%be%9b%e3%81%a3%e3%81%bd%e3%81%84%e8%a1%8c%e5%8b%95%e3%81%ae%e5%af%be%e5%87%a6%e6%b3%95/

3-3. 申請窓口と標準的な交付までの期間

  • 申請窓口: 居住地の市区町村役場の障害福祉担当窓口
  • 交付までの期間: 申請後、自治体による書類の確認と都道府県の精神保健福祉センターでの審査が行われるため、一般的に1ヶ月半から3ヶ月程度かかります。

4. 交通事故(後遺障害)と手帳等級の関係性

高次脳機能障害が交通事故を原因とする場合、損害賠償制度上の「後遺障害等級」と、福祉制度上の「精神障害者保健福祉手帳等級」という、二つの異なる公的評価を受けることになります 

4-1. 後遺障害等級と手帳等級は「目的が異なる別制度」

両制度は、等級の審査基準、評価項目、および目的が全く異なるため、後遺障害等級が手帳等級に自動的に置き換えられたり、連動したりすることはありません 

  • 後遺障害等級: 損害賠償額(逸失利益、慰謝料など)を算定するために用いられ、労働能力の喪失度を評価します。
  • 手帳等級: 社会生活上の福祉支援(サービス利用、税制優遇など)を目的とし、生活のしづらさを評価します。

4-2. 後遺障害の「要介護」認定との連動性

後遺障害等級で別表第1(要介護)に認定されるような極度の日常生活能力の喪失を伴う高次脳機能障害は、福祉制度においても、精神障害者保健福祉手帳の1級または2級に該当することが一般的です 
これは、両制度が「常時または随時介護が必要な状態」という極めて高い援助の必要性を評価する点において、実質的に連動しているためです

高次脳機能障害の後遺障害等級認定の条件やポイントについては、こちらの記事で詳しく解説しています。

高次脳機能障害とは?後遺障害等級認定を受けるためのポイント

https://clkoshigayakotsujiko.com/higherbrain-dysfunction/

4-3. 損益相殺における障害者手帳の考慮(弁護士の視点)

精神障害者保健福祉手帳は、所得の補填や逸失利益の補償を目的とした金銭的給付を提供する制度ではありません 
そのため、手帳を取得しても、
税制優遇や公共料金の割引といった行政サービスは、交通事故の損害賠償額から控除(損益相殺)されることはありません 

しかし、障害年金(国民年金・厚生年金)や労災保険の障害(補償)年金といった、所得を補填する性質を持つ公的給付については、逸失利益や休業損害に相当する賠償額から控除(損益相殺)されます 
この際、
既に支給を受けた分と、将来分のうち支給が確定した分のみが控除の対象となる点に注意が必要です 

5. まとめ:手帳の取得は社会生活を支援するための重要な一歩

高次脳機能障害者にとって、精神障害者保健福祉手帳の取得は、経済的負担の軽減就労機会の拡大、そして日常生活における継続的な支援を受けるための重要な一歩となります。

適切な等級認定を得るためには、初診日から6ヶ月の期間を厳守し、特に家族による客観的な生活状況の報告が、医師の「日常生活能力の程度」の評価に反映されるよう努めることが、最も重要な要素となります 


高次脳機能障害に関する専門的な相談支援は、
高次脳機能障害支援拠点機関などの公的機関で受けることができます 
支援が必要な場合は、お住まいの自治体の障害福祉担当窓口、または以下の公的機関にご相談ください。

高次脳機能障害に関する公的支援窓口:

国立障害者リハビリテーションセンター 高次脳機能障害情報・支援センター

https://www.rehab.go.jp/hqs/support/center/ 41

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